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骨粗鬆症の薬で顎骨壊死?抜歯前の休薬が不要な理由を整形外科専門医が解説

掲載日:2026.08.24(最終更新日:2026.08.24)

抜糸

「歯医者さんで抜歯が必要と言われた。でも骨粗鬆症の薬を飲んでいると、顎の骨が壊死するかもしれないと聞いた」——診察室で本当によく受けるご相談です。

 

この不安から歯科受診を先延ばしにしたり、大切な骨粗鬆症の薬を自己判断でやめてしまったりする方が少なくありません。実はその両方が、かえってリスクを高めます。

 

この記事では、骨粗鬆症の薬と顎骨壊死の関係について、2023年に改訂された国内指針と海外の研究をもとに整理します。読み終えるころには、歯科で何を伝えればよいか、今日から何をすればよいかがはっきりしているはずです。

————目次————
1.顎骨壊死(がっこつえし)とは?
2.なぜ「顎の骨」だけに起こるのか
3.【結論】抜歯前の休薬は必要ありません
4.自己判断で薬をやめてはいけない理由
5.顎骨壊死と関連しない骨粗鬆症の薬もある
6.顎骨壊死はどのくらいの確率で起こる?
7.顎骨壊死を予防する3つの習慣
8.よくある質問(FAQ)
9.まとめ

顎骨壊死(がっこつえし)とは?

顎骨壊死

顎骨壊死とは、骨の代謝に作用する薬を使用している方の顎の骨が治りにくくなり、骨が口の中に露出したり、傷や腫れ・痛みが長引いたりする状態です。

 
正式には薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)と呼ばれます。専門的には、顎の骨が8週間以上露出している、または骨に通じる穴(瘻孔)があることなどを基準に、歯科口腔外科が診断します[1]
 

骨粗鬆症の薬による顎骨壊死は、名前の印象ほど「顎全体が突然腐り落ちる」ような病気ではありません。ただし、放置すれば骨髄炎などへ進展しうるため、早めに気づくことが大切です。

✅ 歯科・口腔外科への相談を検討したいサイン

・抜歯した部分の傷が、いつまで経っても閉じない

・歯ぐきから白い骨のようなものが見えている

・顎の腫れ・痛み・膿が続いている

・下唇やあごの皮膚がしびれる

・原因のはっきりしない歯のぐらつきがある

 

これらが当てはまる場合は、自己判断せず歯科口腔外科にご相談ください。

なぜ「顎の骨」だけに起こるのか

破骨細胞

腕や足の骨には起こらないのに、顎の骨に起こるのはなぜでしょうか。

 

答えは、顎の骨が歯と口の中の細菌にきわめて近い、特別な骨だからです。

 

骨は毎日、古くなった部分を壊し(骨吸収)、新しい骨を作る(骨形成)という”リフォーム”を繰り返しています。骨粗鬆症の薬のうちビスホスホネート製剤やデノスマブ製剤(商品名プラリアなど)は、骨を壊す細胞である破骨細胞(はこつさいぼう)の働きを抑えることで骨折を防ぎます。

 

一方で顎の骨は、覆っている粘膜が薄く、食事のたびに刺激を受け、歯周病や重症のむし歯から細菌感染が届きやすい環境にあります。口の中の感染・傷・薬の作用が重なったときに、修復のバランスが崩れて顎骨壊死が起こると考えられています[1]

 

つまり、薬だけが原因ではないということです。歯周病、歯の根の先の炎症、合わない入れ歯による傷、喫煙、糖尿病、ステロイドの使用など、複数の要素が重なって発症します[1]

 

なお、骨粗鬆症の治療と、がんの骨転移の治療では、同じ系統の薬でも投与量と間隔がまったく異なります。インターネットで見かけた数字を、そのままご自身に当てはめないでください。

【結論】抜歯前の休薬は必要ありません

ここが最も知っていただきたい部分です。

 

2023年7月に日本口腔外科学会・日本骨粗鬆症学会などが公表した「顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023」では、原則として抜歯時に骨吸収抑制薬(ビスホスホネート製剤およびデノスマブ製剤)を予防的に休薬しないことが提案されました[2]。米国口腔顎顔面外科学会(AAOMS)も、休薬の有効性を支持する明確な根拠はないとしています[1]

なぜ休薬に意味が乏しいのか

理由は2つあります。

 

① ビスホスホネートは骨に長くとどまる 数週間から数か月休んだところで、骨の中に取り込まれた薬の量はほとんど変わりません。

 

② 研究で休薬の効果が示されていない 経口ビスホスホネート使用者の抜歯後を調べた日本の多施設研究では、短期間の休薬で顎骨壊死を減らせるという明確な結果は得られませんでした。むしろ歯周病の進行や、抜歯後の傷が閉じないことのほうが発症と関連していました[3]。高用量の骨吸収抑制薬を対象とした2022年のシステマティックレビュー・メタアナリシスでも、休薬が発症を有意に減らすという結論には至っていません[4]

 

さらに指針では、抜歯の適応となる重度の歯周病や根尖病変は、すでに顎の骨に細菌感染を伴っていることが多い点にも注意が促されています[2]

 

抜歯を避けて感染を放置するほうが、リスクが高くなりうるということです。

 

🎥 動画でもわかりやすく解説しています。診察室での実際の説明の流れは、こちらもあわせてご覧ください

中山クリニック公式YouTube「あごの骨が壊死する骨粗鬆症の薬とは?」

自己判断で薬をやめてはいけない理由

休薬注意

「念のため、しばらく薬を止めておこう」——これが最も避けたい行動です。

 

とくにデノスマブ製剤(プラリア)は、決められた投与時期から大きく遅れたり中断したりすると、抑えられていた骨の代謝が急に活発になります。海外の大規模試験(FREEDOM試験)の解析では、デノスマブ中止後に椎体骨折(背骨の骨折)の発生率が、治療中の100人年あたり1.2件から7.1件へ上昇したと報告されています[5]

 

つまり、きわめてまれな顎骨壊死を避けようとして、より起こりやすい背骨の骨折を招くという本末転倒が起こりえます。

 

歯科で抜歯が必要と言われても、ご自身の判断で注射を見送ったり、飲み薬をやめたりしないでください。休薬するかどうかの判断は、処方している医師と歯科医師が情報を共有したうえで行うものです。

顎骨壊死と関連しない骨粗鬆症の薬もある

休薬注意
意外に知られていないポイントです。骨粗鬆症の薬がすべて顎骨壊死のリスクになるわけではありません。

分類 代表的な薬(一般名/商品名) 顎骨壊死との関連
ビスホスホネート製剤 アレンドロン酸、リセドロン酸、ミノドロン酸、ゾレドロン酸 など 関連が指摘されている
抗RANKL抗体 デノスマブ(プラリア) 関連が指摘されている
骨形成促進薬(PTH製剤) テリパラチド(フォルテオ、テリボン) 関連しないとされる
活性型ビタミンD3製剤 エルデカルシトール、アルファカルシドール など 関連しないとされる
SERM ラロキシフェン、バゼドキシフェン 関連しないとされる

 

PTH製剤・ビタミンD製剤・SERMは、顎骨壊死との関連が指摘されていない薬です[2]。これらを使用中の方は、抜歯やむし歯治療を理由に治療を中断する必要はありません。

 

なお、2023年の指針では、新しい薬であるロモソズマブ(イベニティ)による顎骨壊死の報告にも触れられています[2]。ご自身の薬がどれに当たるかは、必ず処方医にご確認ください。

📒 歯科では「病名」より「薬の名前」を伝える

大切なのは、歯科で「骨粗鬆症です」とだけ伝えるのではなく、「この薬を、いつから使っています」と具体的に伝えることです。

 

そのための最良の道具がお薬手帳です。診察室で薬の名前を記憶から思い出す必要はありません。手帳を見せれば、医科と歯科の情報共有が一度で済みます。必要に応じて、診療情報提供書でより詳しい連携を行います。

顎骨壊死はどのくらいの確率で起こる?

数字を正しく知ることが、過度な不安を手放す近道です。

 

経口ビスホスホネートを長期に使用している8,572人を対象とした米国の大規模調査では、顎骨壊死の有病率は0.10%、4年を超えて使用している方でも0.21%と報告されています[6]。おおよそ1,000人に1〜2人程度という水準です。報告によって数値には幅がありますが、骨粗鬆症の治療で起こる顎骨壊死はまれという点は共通しています。

 

一方で、リスクは薬の種類によっても異なります。スイスの骨粗鬆症登録データを用いた2022年の実地調査では、骨粗鬆症患者においてデノスマブのほうがビスホスホネートより顎骨壊死の発生リスクが高いと報告されました[7]。ただしこれも絶対的な頻度としてはまれであり、骨折予防という利益を上回るものではないと考えられています。

 

まれではあるが、ゼロではない。 だからこそ、次にお伝えする予防の習慣が意味を持ちます。

顎骨壊死を予防する3つの習慣

予防習慣

顎骨壊死の引き金は「口の中の感染」です。つまり、予防の主役は薬をやめることではなく、口の中を清潔に保つことです。

 

✅ ステップ1:毎日の歯みがき+歯間ケアを徹底する 毎食後の歯みがきに加えて、1日1回は歯間ブラシまたはデンタルフロスで歯と歯の間の汚れを落とします。歯ブラシだけでは歯と歯の間の汚れは十分に落ちません。

 

✅ ステップ2:禁煙する 喫煙は唾液の分泌を減らし、口の中が乾きやすくなります。歯周病とむし歯の明確なリスクであり、傷の治りも悪くなります。

 

✅ ステップ3:お薬手帳で医科と歯科をつなぐ 処方されている薬や注射の名前・開始時期を、歯科でも共有します。歯科治療の予定がある場合は、処方医にもその旨をお伝えください。

 

さらに、歯科での定期的なチェックを続けることが土台になります。指針でも、継続的な歯科治療と良好な口腔衛生の維持が顎骨壊死の予防に重要とされています[2]

 

歯みがきだけですべてを防げるわけではありません。それでも、口の中の感染を減らすことは、顎骨壊死に限らずさまざまな病気のリスクを下げる大切な土台になります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 骨粗鬆症の薬を飲んでいると抜歯できませんか?

A. 抜歯は可能です。2023年の国内指針でも、抜歯を理由に骨吸収抑制薬を予防的に休薬しないことが提案されています[2]。むしろ重度の歯周病やむし歯を放置するほうが、顎の骨の感染を進行させる可能性があります。歯科と処方医で情報を共有したうえで治療を進めます。

 

Q2. 抜歯前に骨粗鬆症の薬を休薬する必要はありますか?

A. 原則として必要ありません。休薬が顎骨壊死を減らすという明確な根拠は示されていません[3][4]。ビスホスホネートは骨に長くとどまるため、数週間の休薬では骨の中の薬の量はほとんど変わらないためです。

 

Q3. プラリア(デノスマブ)の注射中でも抜歯できますか?

A. できます。むしろ自己判断で注射を中断するほうが危険です。デノスマブ中止後は椎体骨折の発生率が上昇することが報告されています[5]。次回の注射時期と歯科治療の時期については、処方医と歯科医師にご相談ください。

 

Q4. 顎骨壊死の初期症状は何ですか?

A. 抜歯した傷が治らない、歯ぐきから骨が見える、顎の腫れ・痛み・膿が続く、下唇のしびれなどです。8週間以上の骨の露出が診断の目安のひとつとされますが[1]、症状が続く場合はその前でも歯科口腔外科への相談が推奨されます。

 

Q5. 顎骨壊死になる確率はどのくらいですか?

A. 経口ビスホスホネート使用者を対象とした米国の調査では有病率0.10%、4年超の使用でも0.21%と報告されています[6]。1,000人に1〜2人程度という水準で、骨粗鬆症治療における顎骨壊死はまれな合併症です。

 

Q6. インプラント治療は受けられますか?

A. 現時点で、骨粗鬆症治療に用いる低用量の骨吸収抑制薬を使用中の方にインプラント手術を行ってはならないとする根拠はないとされています[2]。ただし個々のリスクは異なるため、歯科医師と処方医の連携のもとで判断されます。

 

Q7. 顎骨壊死になったら治りませんか?

A. 治療により改善が期待できます。米国の指針では、すべての病期において保存的治療と外科的治療のいずれもが選択肢となり、患者さんごとの状況に応じて決められるとされています[1]。早期に発見できるほど選択肢は広がります。

 
🎥 「結局、歯医者さんで何と言えばいいの?」という具体的な伝え方は、動画のほうがイメージしやすいかもしれません
中山クリニック公式YouTube

まとめ

・抜歯時の予防的な休薬は不要——2023年の国内指針が明記しています

・PTH製剤・ビタミンD製剤・SERMは、顎骨壊死との関連が指摘されていない薬です

・自己判断の休薬は骨折リスクに影響します。判断は処方医と歯科医師で行います

・お薬手帳で情報を共有し、毎日の口腔ケアを続けることが最大の予防になります

・骨粗鬆症の薬による顎骨壊死はまれですが、ゼロではありません。だからこそ歯科の定期受診が意味を持ちます

 

骨折を防ぐ薬と、歯を守る習慣。この2つは対立するものではありません。両立させることが、骨粗鬆症の薬と顎骨壊死をめぐる現在の答えです。

 

歩くにはしっかりした骨が、食べるには丈夫な歯が欠かせません。どちらも、これからの生活の質を支える土台です。

📞 ご相談・ご予約

骨粗鬆症の薬と歯の治療の両立でお困りの方、骨密度が気になる方は、明石市の中山クリニックまでお気軽にご相談ください。当院ではガイドラインに沿った骨密度検査と骨粗鬆症治療を行っています。歯科での治療予定がある方には、処方内容の情報共有もサポートいたします。

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※本記事は一般的な健康情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。お薬の継続・中止の判断は、必ず処方している医師にご相談ください。

📚 参考文献

  1. Ruggiero SL, Dodson TB, Aghaloo T, Carlson ER, Ward BB, Kademani D. American Association of Oral and Maxillofacial Surgeons’ Position Paper on Medication-Related Osteonecrosis of the Jaws—2022 Update. J Oral Maxillofac Surg. 2022;80(5):920-943.
  2. 顎骨壊死検討委員会. 薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023. 日本口腔外科学会ほか, 2023年7月.
  3. Hasegawa T, Kawakita A, Ueda N, et al.; Japanese Study Group of Cooperative Dentistry with Medicine (JCDM). A multicenter retrospective study of the risk factors associated with medication-related osteonecrosis of the jaw after tooth extraction in patients receiving oral bisphosphonate therapy: can primary wound closure and a drug holiday really prevent MRONJ? Osteoporos Int. 2017;28(8):2465-2473.
  4. Aboalela AA, Farook FF, Alqahtani AS, Almousa MA, Alanazi RT, Almohammadi DS. The Effect of Antiresorptive Drug Holidays on Medication-Related Osteonecrosis of the Jaw: A Systematic Review and Meta-Analysis. Cureus. 2022;14(10):e30485.
  5. Cummings SR, Ferrari S, Eastell R, et al. Vertebral Fractures After Discontinuation of Denosumab: A Post Hoc Analysis of the Randomized Placebo-Controlled FREEDOM Trial and Its Extension. J Bone Miner Res. 2018;33(2):190-198.
  6. Lo JC, O’Ryan FS, Gordon NP, et al.; PROBE Investigators. Prevalence of osteonecrosis of the jaw in patients with oral bisphosphonate exposure. J Oral Maxillofac Surg. 2010;68(2):243-253.
  7. Everts-Graber J, Lehmann D, Burkard JP, et al. Risk of Osteonecrosis of the Jaw Under Denosumab Compared to Bisphosphonates in Patients With Osteoporosis. J Bone Miner Res. 2022;37(2):340-348.

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