腱板断裂のチェック方法|レントゲンで写らない肩の痛みの正体
掲載日:2026.05.18(最終更新日:2026.05.18)

それは「ただの五十肩」ではなく、腱板断裂かもしれません。
やっかいなのは、この肩の痛みがレントゲンにはほとんど写らないことです。
この記事では、整形外科専門医が腱板断裂のセルフチェック方法と、なぜ画像検査が必要なのかを、エビデンスをもとに解説します。
1.腱板断裂とは?
2.腱板を構成する4つの筋肉と、損傷しやすい順番
3.腱板断裂が起こる原因と症状
4.腱板断裂のチェック方法|10秒でできる3つのセルフテスト
5.なぜレントゲンでは腱板断裂が写らないのか|診断はMRI・エコーが必要
6.腱板断裂の治療法|保存療法から手術・再生医療まで
7.腱板断裂の予防・セルフケア
8.よくある質問(FAQ)
9.まとめ
1.腱板断裂とは?

腱板断裂とは、肩を支える4つの筋肉の腱(腱板)が切れた状態のことです。
もう少し専門的に補足します。
腱板(けんばん)とは、肩甲骨から始まり上腕骨の先端(骨頭〔こっとう〕=腕の骨の球状の部分)を包む、4つの筋肉の腱が板状に集まったものを指します。この腱板が肩関節を安定させ、スムーズな動きを支えています。
腱板の腱が部分的または完全に切れたものが腱板断裂で、加齢とともに増える代表的な肩の痛みの原因です。
2.腱板を構成する4つの筋肉と、損傷しやすい順番

腱板は、次の4つの筋肉のチームで肩を動かしています。
- 1. 棘上筋(きょくじょうきん):肩の真上にあり、腕を横に上げる(外転〔がいてん〕)動きの主役
- 2. 肩甲下筋(けんこうかきん):肩の前側、腕を内側にひねる(内旋〔ないせん〕)動きを担う
- 3. 棘下筋(きょっかきん):肩の後ろ側、腕を外側にひねる(外旋〔がいせん〕)動きを助ける
- 4. 小円筋(しょうえんきん):棘下筋の下にあり、同じく外旋を助ける

損傷しやすい順番には明確な傾向があります。
最も切れやすいのは棘上筋の腱で、腱板断裂の約85〜95%以上に棘上筋腱の損傷が含まれると報告されています[1]。次に多いのが肩甲下筋の腱で、画像診断と関節鏡手術の普及により、腱板断裂全体の約10〜40%に見られるとされ、外傷性のケースでは約78%の断裂に関与したという報告もあります[2]。続いて棘下筋(全体の約30〜55%)、最も頻度が低いのが小円筋(5%未満)です。
3.腱板断裂が起こる原因と症状

腱板は、肩峰(けんぽう)という肩の屋根のような骨と上腕骨頭の間にはさまれた、デリケートな組織です。10〜20代は弾力があり骨にはさまれても滑らかに動きますが、40〜50代になると腱が硬くなり、傷つきやすくなります。
初期は「ただの肩こり」「そのうち治る」と軽く考えがちですが、放置すると痛みが強くなり、着替え・洗髪・背中に手を回す動作が困難になります。進行すると肩に力が入らない、可動域が極端に狭くなる、夜間痛で眠れない、といった症状につながります。
早期発見と適切な対処が重要です。
4.腱板断裂のチェック方法|10秒でできる3つのセルフテスト

ここからが本題です。自宅でできる代表的な3つの腱板断裂チェックを紹介します。痛みが強いときは無理をせず中止してください。
✅ ステップ1:ペインフルアークサイン(主に棘上筋)
立った姿勢で、手のひらを下に向け、腕をゆっくり真横から上げます。約60〜120度の範囲でだけ肩に痛みが出て、それ以上に上げると痛みが和らぐ場合は陽性が疑われます。
✅ ステップ2:エンプティカンテスト(主に棘上筋)
両腕を肩の高さで前方へ約30〜45度開き、親指を下に向けます(缶を空にするポーズ)。その姿勢で誰かに腕を上から軽く押してもらい、抵抗します。肩の痛みや、力が入らず腕が下がる場合は陽性が疑われます。
✅ ステップ3:ベリープレステスト別名ナポレオンテスト・主に肩甲下筋)
手のひらをみぞおちの少し下に当て、肘を前に突き出したままお腹を強く押します。肘が後ろに引けたり、手首が反ったり、肩の前に痛みが出る場合は陽性が疑われます。ナポレオンの肖像画のポーズに由来する名前です。

これらの簡易テストは、研究でも一定の診断的価値が示されています。
複数の研究を統合したメタアナリシスでは、棘上筋を調べるテスト(Jobeテスト等)は全層腱板断裂に対して比較的高い診断精度を示し(感度約74%、特異度約77%)[3]、別のコホート研究でもJobeテストは感度88%・特異度62%、フルカンテストは感度70%・特異度81%と報告されています[4]。2024年の大規模メタアナリシス(20研究・3,438例)でも、複数の身体所見が腱板断裂の絞り込みに有用と結論づけられています[5]。
ただし注意してください。これらはあくまで「疑わしいかどうか」の目安であり、陽性でも腱板断裂と確定はできません。肩の痛みの原因には、五十肩(肩関節周囲炎)、石灰沈着性腱板炎、変形性肩関節症など多くの可能性があります。
文字だけでは腕を上げる角度やフォームが伝わりにくいので、実際の動きはこちらのセルフチェック動画が参考になります。
肩の痛み 原因は?10秒で肩をセルフチェックする方法【腱板損傷 テスト】
5.なぜレントゲンでは腱板断裂が写らないのか|診断はMRI・エコーが必要

ここがこの記事の核心です。レントゲンは骨を写す検査であり、腱や筋肉といった軟部組織はほとんど写りません。そのため、腱板が切れていてもレントゲンだけでは見逃されることがあります。
これは研究でも裏付けられています。2025年に報告された診断精度研究では、骨折のない急性の肩外傷(レントゲン正常)で受診した40歳以上の患者のうち、約38%に全層腱板断裂または付着部の骨折が見つかったとされています[6]。さらにこの研究では、「腕を90度より上に挙げられない」だけで感度84%・特異度71%、これに外旋筋力の低下を組み合わせると感度は90%超に高まると報告されました[6]。
レントゲンが正常でも、症状があれば腱板断裂を疑う必要があるということです。
整形外科専門医の診察では、まず痛みの始まった時期やきっかけ、痛む動作を詳しく伺う問診を行います。そのうえで肩の動き・圧痛・筋力を確認し、必要に応じてレントゲンに加え、MRI検査(腱の状態を立体的に評価)やエコー(超音波)検査(動かしながら腱を観察)で正確に診断します。
6.腱板断裂の治療法|保存療法から手術・再生医療まで

治療は、断裂の大きさ・年齢・活動量・全身状態を踏まえ、段階的に検討します。
1. 保存療法:安静、薬物療法、リハビリ(運動療法)、必要に応じた注射など。小〜中程度の断裂や活動量が高くない方では有効な選択肢です。完全断裂を対象とした複数の無作為化試験のメタアナリシスでは、手術群と保存療法群の肩機能(2年時点)に統計学的な有意差は認めず、痛みは1年時点で手術群がやや良好と報告されています[7]。

2. 手術療法:保存療法で改善しない場合や、断裂が大きい・若年で活動性が高い場合などに、関節鏡視下の腱板修復術などが検討されます。

3. 再生医療など:当院ではPRP療法・APS療法・脂肪由来幹細胞治療といった選択肢も用意しています。これらは公的医療保険の対象外(自由診療)で、腱板断裂に対するエビデンスは現在も蓄積段階にあります。適応の可否や効果・リスクは個人差が大きいため、医師の診察のうえで十分にご相談ください。費用は変動するため、詳しくはお問い合わせください。

いずれの治療にも、痛み・感染・再断裂・効果が十分に得られない可能性などのリスクや限界があります。「必ず治る」治療は存在しません。担当医と相談しながら、ご自身に合った方針を選ぶことが大切です。
7.腱板断裂の予防・セルフケア

- ✅ ステップ1:肩に違和感が出たら早めに受診し、放置しない
- ✅ ステップ2:重い物を急に持ち上げる・腕を勢いよく振る動作を避ける
- ✅ ステップ3:痛みのない範囲で肩甲骨まわりを動かし、こわばりを防ぐ(痛みが出たら中止)
セルフケアはあくまで補助です。強い痛み・力が入らない・夜間痛が続く場合は、自己判断せず整形外科を受診してください。
8.よくある質問(FAQ)

Q1. 腱板損傷とは何ですか?
A. 肩を動かす4つの筋肉の腱(腱板)が傷んだ状態の総称です。傷みが進んで腱が切れたものを腱板断裂と呼びます。加齢により40代以降で増加します。
Q2. 腱板断裂はレントゲンでわかりますか?
A. レントゲンでは基本的にわかりません。骨を写す検査のため、腱や筋肉は写らないからです。診断にはMRIやエコー検査が必要です。
Q3. 腱板損傷のセルフチェック方法は?
A. ペインフルアーク・エンプティカン・ベリープレスの3テストが代表的です。約10秒で確認できますが、結果は目安であり確定診断にはなりません。
Q4. 腱板断裂は自然に治りますか?
A. 切れた腱が自然に元通りつながることは基本的にありません。ただし症状は保存療法で和らぐことが多く、治療方針は断裂の状態によって異なります。
Q5. 腱板損傷の症状にはどんなものがありますか?
A. 腕を上げるときの痛み、夜間の肩の痛み、肩に力が入らない、可動域の制限などです。長引く肩こり様の症状で見つかることもあります。
Q6. 腱板断裂でやってはいけないことは?
A. 痛みを我慢して使い続ける・重い物を急に持ち上げる動作です。断裂が広がる恐れがあるため、症状が続く場合は受診を優先してください。
Q7. 肩の痛みは何科を受診すればよいですか?
A. 整形外科です。腱板断裂以外にも五十肩や石灰沈着性腱板炎など原因は多岐にわたるため、整形外科専門医の診察が推奨されます。
9.まとめ

- 腱板断裂は、肩を動かす4つの筋肉の腱が切れた状態で、棘上筋が最も切れやすい。
- レントゲンには写らず、診断にはMRI・エコー検査と整形外科専門医の診察が必要。
- ペインフルアーク・エンプティカン・ベリープレスの3テストで10秒のセルフチェックが可能(あくまで目安)。
- 治療は保存療法を基本に、手術や再生医療(自由診療)も選択肢となる
- 「ただの肩こり」と放置せず、肩の痛みが続くときは早めの受診を
3つのテストの正しいフォームやナポレオンテストの由来は、こちらの動画で実演とともに確認できます。
肩の痛みは、早く原因を見極めるほど対処の選択肢が広がります。気になる症状がある方は、自己判断せず整形外科専門医にご相談ください。
参考文献
本記事の医学的根拠の一部は、PubMed(米国国立医学図書館)に収載された論文に基づいています。
- Zhao J, et al. Risk Factors for Supraspinatus Tears: A Meta-analysis of Observational Studies. Orthop J Sports Med. 2021;9(10):23259671211042826. DOI: 10.1177/23259671211042826
- Mall NA, et al. An evidenced-based examination of the epidemiology and outcomes of traumatic rotator cuff tears. Arthroscopy. 2013;29(2):366-376.
- Gismervik SØ, et al. Physical examination tests of the shoulder: a systematic review and meta-analysis of diagnostic test performance. BMC Musculoskelet Disord. 2017;18(1):41. DOI: 10.1186/s12891-017-1400-0
- Jain NB, et al. The Diagnostic Accuracy of Special Tests for Rotator Cuff Tear: The ROW Cohort Study. Am J Phys Med Rehabil. 2017;96(3):176-183. DOI: 10.1097/PHM.0000000000000566
- Zhao Q, et al. Evidence-based approach to the shoulder examination for subacromial bursitis and rotator cuff tears: a systematic review and meta-analysis. BMC Musculoskelet Disord. 2024;25(1):1028. DOI: 10.1186/s12891-024-08144-z
- Enger M, et al. Physical examination tests in the acute phase of shoulder injuries with negative radiographs: a diagnostic accuracy study. BMC Musculoskelet Disord. 2025;26(1):546. DOI: 10.1186/s12891-025-08754-1
- Longo UG, et al. Conservative versus surgical management for patients with rotator cuff tears: a systematic review and meta-analysis. BMC Musculoskelet Disord. 2021;22(1):50. DOI: 10.1186/s12891-020-03872-4
