中山クリニック

【医師解説】腕立て伏せの効果で心疾患リスク96%減?シニアも安全な大胸筋の鍛え方と回数

掲載日:2026.01.21(最終更新日:2026.01.21)


「腕立て伏せなんて、もう何年もやっていない」
「シニアにはキツすぎるし、関節を痛めそうで怖い」
 
もしあなたがそう思っているなら、非常に「もったいない」ことをしているかもしれません。
なぜなら、腕立て伏せは単なる筋トレではなく、将来の病気リスクを予測し、健康寿命を延ばすための「最強の医療器具」になり得るからです。
 
このコラムでは、ハーバード大学の研究をはじめとする最新の医学的エビデンスに基づき、シニア世代こそ実践すべき「腕立て伏せ」の驚くべき効果と、80代からでも始められる安全なステップについて、詳しくご紹介します。

————目次————
1.腕立て伏せが「最強の医療器具」と呼ばれる理由
2.五十肩・猫背予防の鍵!「前鋸筋」と「プッシュアップ・プラス」
3.🩺 医師直伝!プッシュアップ・プラスのやり方
4.80代でも大丈夫!負荷を調整する「黄金の4ステップ」
5.効果が激変!大胸筋に効かせる「3つの極意」
6.【第1位】
7.Q&A:よくある質問にお答えします
8.まとめ:5つの悪習慣はつながっている

腕立て伏せが「最強の医療器具」と呼ばれる理由

多くの人が「腕立て伏せ=若い男性が胸板を厚くするためにやるもの」というイメージを持っています。
しかし、医学的な視点で見ると、その役割はまったく異なります。
 
腕立て伏せは、あなたの全身の血管の状態や基礎体力を映し出す「鏡」のような存在です。そして、特別な器具を使わず、自宅で今すぐ始められるにもかかわらず、その健康効果はベンチプレスなどのマシン・トレーニングと比較しても遜色がないことがわかっています[7]
 
ここでは、「腕立て伏せを行うべき3つの医学的メリット」を解説します。

1. 心血管疾患のリスクが96%も低下する


これが最も衝撃的なデータかもしれません。
2019年にハーバード大学の研究チームが発表した論文によると、ある驚くべき事実が判明しました[1]
 
研究では、1104人の消防士を対象に10年間の追跡調査を行いました。その結果、「腕立て伏せが40回以上できたグループ」は、「10回未満しかできなかったグループ」に比べて、心筋梗塞などの心血管イベントのリスクが約96%も低かったのです。

🤔 なぜこれほどの差が出るの?

腕立て伏せができるということは、単に腕の力が強いということだけではありません。
全身の筋肉に酸素を行き渡らせる心肺機能や、血管の柔軟性が保たれていることの証明でもあります。
つまり、腕立て伏せの回数は、心臓病のリスクを予測する強力な指標となるのです。
 
もちろん、いきなり40回を目指す必要はありません。大切なのは、現在の自分の体力を知り、少しずつ向上させていくことです。

2. 骨密度が向上し、骨折を予防する


シニア世代にとって「骨折」は、寝たきり生活の入り口になりかねない恐ろしい怪我です。
骨を強くするためには、カルシウムを摂るだけでなく、「骨に物理的な負荷をかける」ことが不可欠です。
 
腕立て伏せによって腕の骨に体重がかかると、その刺激で骨を作る細胞(骨芽細胞)が活性化します。
実際に、自重トレーニングを行うことで、前腕の骨密度や骨代謝マーカーが改善したという研究報告もあります[2]
 
✅ 腕立て伏せは、筋肉だけでなく「」も鍛えるトレーニングです。

3. 誤嚥性肺炎を防ぐ「呼吸機能」の強化


3つ目のメリットは「呼吸」です。これは意外に思われるかもしれません。
 
腕立て伏せは、大胸筋などの胸周りの筋肉だけでなく、姿勢を支えるお腹のインナーマッスル(体幹)も同時に使います。
ここが鍛えられると、呼吸が深くなり、「咳き込む力」が強くなります。
 
シニアの命を奪う大きな原因の一つに「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」があります。食べ物や唾液が誤って気管に入ってしまった際、強く咳き込んで排出する力が弱っていると、肺炎を引き起こしてしまうのです。
 
腕立て伏せで上半身と体幹を鍛えることは、将来の肺炎予防、ひいては命を守ることにもつながります。

五十肩・猫背予防の鍵!「前鋸筋」と「プッシュアップ・プラス」

ここで、シニアの皆さんにぜひ覚えていただきたい重要な筋肉があります。
それは「前鋸筋(ぜんきょきん)」です。

🤔 前鋸筋とは?


脇の下にある筋肉で、肩甲骨を前に押し出したり、腕をスムーズに上げたりするために不可欠な筋肉です。
 
この筋肉が衰えると、肩甲骨の動きが悪くなり、五十肩の原因になったり、背中が丸まって猫背になったりします。逆に言えば、前鋸筋を鍛えることで、美しい姿勢とスムーズな肩の動きを取り戻すことができるのです。
 
そこで推奨するのが、通常の腕立て伏せにひと手間加えた「プッシュアップ・プラス」というテクニックです。

🩺 医師直伝!プッシュアップ・プラスのやり方

方法はとてもシンプルです。
 

  1. 通常の腕立て伏せを行い、体を持ち上げます。
  2. 体を上げきったところから、さらに「背中を丸めるように」グッと床(または壁)を押し込みます。
  3. 肩甲骨を外側に開くイメージで「最後のひと押し」を加えます。

 
この「プラス」の動きによって、前鋸筋が強烈に活動することが研究で明らかになっています[3]
これから紹介するどのレベルの腕立て伏せでも、最後はこの「プラス」を意識してください。

80代でも大丈夫!負荷を調整する「黄金の4ステップ」

「腕立て伏せの効果はわかったけれど、やっぱりキツくてできない」
そう思う方もご安心ください。
 
バイオメカニクスの研究に基づき、腕立て伏せはやり方によって「体重の何%の負荷がかかるか」が決まっています[4][5]
このデータに基づいて4段階のレベル別トレーニングを提案しますね。
 
ご自身の体力に合わせて、無理のないレベルから始めてみましょう。

【レベル1】壁腕立て伏せ(負荷:約20〜30%)

運動不足の方、80代以上の方、リハビリ中の方はここからスタートです。
 
負荷の目安:体重60kgの人なら約12kg〜18kg。スーパーの買い物袋を持つ程度の負荷です。
やり方:

  1. 壁に向かって立ち、少し離れた位置に足を置きます。
  2. 肩幅の広さで壁に手をつきます。
  3. ゆっくりと肘を曲げて壁に近づき、元の位置に戻します。
  4. 重要:最後に壁をグッと押して背中を丸めます(プッシュアップ・プラス)。

 
これなら転倒のリスクも少なく、関節への負担も最小限に抑えられます。

【レベル2】膝つき腕立て伏せ(負荷:約50%)

壁での運動が楽に感じるようになったら、次は床で行いますが、膝をつくことで負荷を半分に減らします。
 
負荷の目安:体重の約50%。
やり方:

  1. 床に四つん這いになり、膝をついた状態で手を肩幅につきます。
  2. 膝から頭までが一直線になるように意識します。
  3. 胸を床に近づけ、押し返します。

 
多くのシニア女性にとって、まずはこのレベルを目標にすると良いでしょう。大胸筋や腕に程よい刺激が入ります。

【レベル3】通常腕立て伏せ(負荷:約60%)

膝をつかずに、つま先で支える一般的なスタイルです。
 
負荷の目安:体重の約60%強。
目標:ハーバード大の研究にあった「心血管リスク低減」を目指すなら、最終的にこのレベルを「連続10回以上」できるようになることが理想です。

【レベル4】足上げ腕立て伏せ(負荷:約70%)

さらに負荷を高めたい上級者向けです。
 
負荷の目安:体重の約70%。
やり方:足をソファや椅子などの高い位置に乗せて行います(デクライン)。
注意:頭が下になるため、血圧が上がりやすい種目です。高血圧の方や、血管に不安のある方は無理をしないでください。

効果が激変!大胸筋に効かせる「3つの極意」


せっかく腕立て伏せをやるなら、効率よく筋肉をつけたいですよね。
回数をこなすことばかり考えて、フォームが崩れていると効果は半減してしまいます。
ここでは、大胸筋を確実に厚くするための、医師直伝「3つのテクニック」をご紹介します。

① 手幅は「肩幅」がベスト

「手幅を広くしたほうが胸に効く」と勘違いしていませんか?
 
実は、最新の筋電図研究では、「ナロー(狭め)」か「ノーマル(肩幅)」のほうが、ワイド(広め)よりも大胸筋の活動量が高いというデータがあります[6]
 
手幅が広すぎると可動域(動かせる範囲)が狭くなってしまいます。
✅ 正解: 「肩幅」か、それより「拳一つ分外側」を目安にしましょう。

これが最も重要なポイントです。

体を持ち上げる際、ただ上下に動くのではなく、「両手を内側に寄せるように、床をギュッと挟む
」イメージを持ってください。
 
実際には手は動きませんが、内側に力を込める意識を持つだけで、大胸筋への刺激は何倍にも跳ね上がります。大胸筋の役割は「腕を内側に閉じること」だからです。
 
前鋸筋を鍛えるなら、最後に背中を丸める(プラス動作)。
 
目的に応じて意識を変えるだけで、同じ動作でも効果が変わります。

② 「3秒で下ろし、1秒で上げる」

下ろす時: 「1、2、3」と数えながらゆっくり下ろします。筋肉が引き伸ばされるのを感じてください。この「ゆっくり下ろす動作(エキセントリック収縮)」が、筋肉を大きくするために最も効果的です。
 
✅ 腰が反らないようにする
✅ 首を落とさない
✅ 呼吸を止めない
力を入れる時に息を止めると、血圧が急上昇するリスクがあります。
「体を下ろす時に吸って、上げる時に吐く」を意識してください。
 
✅ 肩を広げすぎない
肘が肩のラインより上にいくと、肩関節を痛めやすくなります。脇を少し締めるイメージで行うのが安全です。

さいごに:今日が一番若い日


「腕立て伏せ」といっても、壁を使った負荷20%の運動から始めれば、80代の方でも、運動が苦手な方でも安全に取り組むことができます。
 
そして、その効果は筋肉をつけるだけでなく、心臓病、骨粗鬆症、肺炎といった、シニア世代が恐れる病気のリスクを下げてくれる可能性を秘めています。
 
筋肉は何歳からでも応えてくれます。「もう遅い」なんてことはありません。
 
これから挑戦しようとしているあなたにとって、今日が一番若い日です。


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引用文献

  1. Yang J, et al. Association Between Push-up Capacity and Future Cardiovascular Events Among Active Adult Men. JAMA Netw Open. 2019;2(2):e188341.
  2. Hintz MJ, et al. Effect of resistance training on bone mineral density and bone turnover in young women. Bone Abstracts. 2013.
  3. Ludewig PM, et al. Relative balance of serratus anterior and upper trapezius muscle activity during push-up exercises. Am J Sports Med. 2004;32(2):484-493.
  4. Ebben WP, et al. Kinetic analysis of several variations of push-ups. J Strength Cond Res. 2011;25(10):2891-2894.
  5. Suprak DN, et al. Scapular kinematics and shoulder muscle activity during high-intensity resistance training. J Athl Train. 2013.
  6. Kim YS, et al. Effect of the push-up exercise at different palmar width on muscle activities. J Phys Ther Sci. 2016;28(2):446-449.
  7. Kikuchi N, et al. Low-load bench press and push-up induce similar muscle hypertrophy and strength gain. J Exerc Sci Fit. 2017 Jun;15(1):37-42.

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