激痛!肩石灰沈着性腱板炎 どのくらいで治る?
掲載日:2024.07.08
1.石灰沈着性腱板炎とは?
2.石灰沈着性腱板炎の診断と画像検査
3.石灰沈着性腱板炎の治療法
4.石灰沈着性腱板炎の治療期間
5.石灰沈着の予防
6.日常生活への影響
7.まとめ
1.石灰沈着性腱板炎とは?
1.病態
石灰沈着性腱板炎とは、肩の腱板という腱にリン酸カルシウム結晶が沈着することで引き起こされる病気です。肩の腱板は、肩関節がグラグラしないように安定させて、腕を動かすための重要な筋肉です。腱板に石灰が沈着すると、初めは濃厚なミルク状、徐々に練り歯磨き粉状、石膏状と硬くなっていき、石灰が大きくなると腱板に炎症が生じて痛みが出現します(図2)。さらに大きくなって腱板から滑液包に漏れると激しい痛みとなります。特に30-50歳の女性に多いことが知られています。
2.症状
石灰沈着性腱板炎の特徴的な症状は、肩の激しい痛みです。特に肩を動かしたときに引っかかるような痛みと違和感、また夜間にも痛みが強くなり、眠れない、寝返りができない、など、じっとしていても痛みが出現します。肩の動きが制限されて、日常生活や仕事、スポーツ活動に大きな影響を与えることもあります。また、肩が腫れる感じや熱感を感じることもあります。
3.発症の原因
石灰沈着性腱板炎がどのように発症するのか、詳しいメカニズムは未だはっきりとわかっていませんが、肩の使いすぎによるごく小さなキズが原因とも考えられています。何らかの原因でリン酸カルシウムが腱板に沈着して発症します。また、遺伝的要因や甲状腺疾患などホルモンの代謝異常が関与している可能性があります。その他、中年の女性に多く発症することから、更年期など加齢による変化も一因とされています。
2.石灰沈着性腱板炎の診断と画像検査
1.問診
いつから、どのように症状が現れたか、動かした時に痛みがあるのか、じっとしている時も痛いかなど痛みの特徴、今までかかった病歴などについて詳しく病状を確認します。五十肩や腱板断裂も同じような症状なので、石灰沈着性腱板炎の可能性を考えながら患者さんからお話を聴きます。
2.診察
肩は人間の関節で最も動く範囲が大きい関節です。色々な方向で肩の動きをチェックし、痛みのある部位を触診します。肩の痛みは頸椎や胸郭が原因であることも珍しくないので肩関節由来の痛みであるかを判断します。肩の可動域や筋力、腱板負荷テストや肩を動かした時の引っかかりがないかを評価し、他の疾患との鑑別を行います。ただし痛みが強すぎる場合は評価できないこともあります。
3.画像診断
最も重要なのは画像診断です。X線や超音波検査(エコー)、MRIが用いられ、肩の腱板にカルシウムが沈着しているかどうかを確認します。X線では石灰化が明確に見える(図1)ため、五十肩との鑑別診断に役立ちます。超音波検査は、リアルタイムでの診断が可能であり、石灰の位置や大きさを詳細に確認できます(図3)。石灰が沈着した部位を立体的に把握するにはCTも有用(図4)です。MRIは腱板断裂や関節炎、軟骨の状態が評価できます。画像診断により適切な治療計画を立てることができます。
3.石灰沈着性腱板炎の治療法
1.保存療法
石灰沈着性腱板炎の治療はまず保存療法から始めます。保存療法には、痛みを和らげるために痛み止め(鎮痛剤)の内服や、痛みが楽になってきた時には肩の動きを改善するためリハビリテーションを行います。ロキソニンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は軽い運動時の痛みは楽になりますが、夜間の激痛はほとんど効果がありません。鎮痛剤は、痛いという症状を軽くするためのお薬で、石灰沈着性腱板炎の病気を治す治療ではないです。また激痛の時にはマッサージやストレッチも痛みが強くなるだけなのでやめましょう。
2.注射療法
痛みが強い場合や保存療法で効果がない場合、局所麻酔薬やステロイド注射を行います。これは、炎症を直接抑えるためにとても有効な方法です。エコーガイド下では、石灰沈着した部位へ正確に注射することが可能です。また石灰吸引することで石灰が消失することも可能です。注射療法は、短期間で痛みを和らげることができます。
3.体外衝撃波治療
体外衝撃波治療は、カルシウム沈着物を破壊し、痛みを軽減するための非侵襲的な治療法です。この治療法は、尿管結石に行う体外衝撃波治療と原理は同じで、石灰沈着性腱板炎に対して非常に効果的であることが報告されています。衝撃波を利用してカルシウムを分解し、炎症を抑える効果があります。治療は数回のセッションで行われ、痛みの軽減や肩の可動域の改善が期待できます。この患者さんは体外衝撃波治療を継続して完全に石灰が消失しました(図5)。
4.手術療法
保存療法や注射療法、体外衝撃波治療でも改善しない場合、手術が検討されます。手術は、内視鏡(関節鏡)を使用して、皮膚を約1cmだけ切開して細い筒状のカメラを使って腱板を確認し、特殊な細い管を使ってカルシウム沈着物を取り除く手術が行われます(図6)。この方法は、傷が小さいので筋肉を傷つけず、痛みが少なく回復が早いという利点があります。手術後は、必ず運動器リハビリテーションが必要で、肩の動きを回復させることが重要です。
4.石灰沈着性腱板炎の治療期間
1.治療期間はどれくらいか?
治療期間は、症状の重さや治療方法によって異なります。保存療法の場合、数週間から数ヶ月かかることがあります。体外衝撃波治療や注射療法を行うと、劇的に痛みが取れて数日で治ることがあります動画リンク。手術を行った場合、回復には約1~3ヵ月を要することが一般的です。治療期間中は、医師の指示に従い、理学療法士とリハビリテーションを継続することが重要です。
2.痛みが続く場合は?
痛みが続く場合は、どうすれば治るか整形外科専門医に相談し、治療の方法を検討することが必要です。石灰沈着性腱板炎は治らない病気ではありません。なるべく早く痛みを取って、リハビリテーションを行い肩の動きを改善して肩の動きが悪くならないように注意しましょう。
3.日常生活の注意点
治療中は、肩を無理に使わないように注意することが重要です。肩に負担がかからないよう重いものを持つことや、激しい運動を避け、肩に痛みのある姿勢を避けることが回復を早める鍵になります。また、適度な運動やストレッチを行い、肩の柔軟性を保つことも重要です。リハビリテーションの一環として、肩周りの筋肉を強化するエクササイズもおすすめです。
5.石灰沈着の予防
1.予防策と生活習慣の見直し
石灰沈着を予防するためには、肩を使いすぎることを避け、痛みのない範囲で色々な方向に肩を動かす運動、例えばラジオ体操やヨガ、ダンスなどを楽しみましょう。肩を酷使する仕事やスポーツをする場合は、定期的な休息を取り、無理をしないよう心がけましょう。また、オメガ3脂肪酸や抗酸化物質を含むサプリメントが、腱の健康を保つために有益であるという研究結果もあります。これらの栄養素を含む食品を積極的に摂取することも予防に役立ちます。
2.肩が石灰化しやすい食べ物の影響
肩の石灰化に対して特定の食べ物が直接的な影響を与えることは証明されていませんが、抗炎症食品(果物、野菜、ナッツ、脂肪の多い魚)を摂取することで、全身の炎症を減少させる効果があります。例えば、オメガ3脂肪酸を多く含む魚やナッツ類、ビタミンCやEを豊富に含む果物や野菜は、炎症を抑える効果が期待できます。なお、コーヒーが石灰沈着性腱板炎の原因として因果関係が証明されていないため、過剰な心配をする必要はありません。
6.日常生活への影響
1.仕事を休む必要があるか?
石灰沈着性腱板炎による激痛の場合、仕事を休む必要があります。特に肩を頻繁に使う仕事をしている場合は、症状が改善するまで休養を取ることが推奨されます。痛みが強いときは無理をせず、医師の指示に従い適切な休息を取ることが大切です。仕事を休む期間は、治療方法や個人の回復力によって異なりますが、一般的には数日から数週間ですが、痛みが続いて肩の動きが悪い場合や重労働の場合は2,3ヶ月休業することがあります。
2.スポーツを続けるためのリハビリ
スポーツを続けるためには、症状が落ち着くまで休止し、医師の指示に従って肩の動きが良くなるまでリハビリテーションを行うことが重要です。無理をせず、回復を最優先に考えることが大切です。肩にやさしい運動を続けて、肩の筋力や柔軟性を保つためのトレーニングを行うことで、再発を防ぐことができます。初めは振り子運動や横向きになって肩を挙げる軽い運動から始めましょう。また、スポーツ復帰時には、少しずつ負荷をかけることが重要です。急激な運動は肩の痛みが再発する危険があり、段階的に運動量を増やしていきましょう。
7.まとめ
石灰沈着性腱板炎は激痛や日常生活がとても不自由になる厄介な病気ですが、早めに適切な治療と予防策を行うことですみやかに痛みが消失して肩の動きが回復することが可能です。整形外科専門医の診断を受けて、症状に応じた正しい治療法を選択して、健康な生活習慣を続けましょう。特に、肩を無理に使いすぎないように注意し、適度な休息とバランスの取れた食事を心がけることが、再発予防につながります。健康的な生活を続けることで、快適な日常生活を送ることができるでしょう。