佐々木朗希 故障者リスト入り!プロ野球投手に多い肩インピンジメントとは?
掲載日:2025.05.16(最終更新日:2025.05.16)
プロ野球選手はもちろん、社会人や高校生の野球選手、特に投手は高い頻度で投球側での肩の痛みを訴えます。
ドジャーズに所属している野球選手の佐々木朗希投手は、右肩を痛めて肩のインピンジメント症候群と診断されました。肩故障する前は球速が最速165kmのボールを投げていました。投球肩とも言われる原因で多いのが「インピンジメント症候群」です。専門用語に聞こえますが、実は「肩甲骨と腕の骨のあいだがこすれることで起こる炎症」です。
本コラムでは、以下の項目について、肩専門医が医学的根拠のある報告に基づきわかりやすく解説していきます。
1.肩インピンジメント症候群とは何か?
2.発症のメカニズム
3.症状の見つけ方(セルフチェック)
4.診断・評価の流れ
5.治療法の紹介
6.復帰率と復帰までの期間
7.おわりに
1. 肩インピンジメント症候群とは?
肩インピンジメント症候群とは、肩関節をつなぐ「肩甲骨」と「上腕骨」のあいだにある腱板や滑液包(かつえきほう)が肩甲骨と何度もこすれあって炎症を起こす状態のことです。インピンジメントとは、英語で “impingement” は「衝突」「干渉」を意味します。つまり、ボールを投げる際に、肩を外転外旋すると腱が肩甲骨の肩峰という骨とぶつかることで炎症が起こって痛みを感じるのです。また腱板が傷ついていることも珍しくありません。
投球動作で腕を振り下ろすとき、上腕骨がくぼみ(肩甲骨)にぶつかり、挟まれた組織がダメージを受けやすくなります。
2. なぜ投手に多いのか?(野球肩・投球肩の特徴)
投手は「反復して強く腕を振る」という特性があり、普段の生活ではほとんど使わない高い位置からのインパクトが繰り返されます。そのため、
🔳肩甲骨の動きが硬くなりやすい
🔳肩の筋肉(ローテーターカフ)が疲労し、筋肉が固くなり腱が薄くなる
🔳肩甲骨と上腕骨の間のスペースが狭くなる
このように「投球肩」は一種の特殊な環境にさらされているため、インピンジメント症候群が起こりやすくなります。
3. セルフチェック
「自分の肩、大丈夫?」と思ったら、以下のチェックを試してみてください。
✅腕を横から真上に伸ばすときに痛いか?
✅後ろに回す動作(背面で手をつなぐような動き)がつらいか?
✅投球直後や投球後にズキッと痛むか?
上記のうち1つでも当てはまれば、インピンジメントの可能性があります。特に肩甲骨の動きが制限されると、症状が強く出ます。
4. 診断・評価の流れ
整形外科クリニックでは、まず問診と触診で大まかな病態をつかみます。その後、
🔳X線検査:骨同士の隙間や骨棘(こつきょく)を確認。
🔳超音波検査:肩を動かしながら腱板の状態を見る。
🔳MRI検査:腱や滑液包の炎症、骨が腱板を圧迫していないか、筋肉の炎症などを評価。
肩の動く範囲や痛みの出る角度、腱板の筋力評価をして「本当にインピンジメント症候群か?」「腱板断裂や関節唇損傷はないか?」をしっかり鑑別します。
👉一口メモ:MRIは体の中を見る「カメラ付きドローン」のようなもの。骨だけでなく、腱や筋肉の「炎症の赤信号」まで映し出します。
5. 治療法の紹介
治療はまず保存治療が優先されます[1]。
①保存療法
🔳安静と患部冷却:痛いときは無理に投げず、アイシングで炎症を抑えます。
🔳ストレッチ&リハビリ:肩甲骨周りや胸の筋肉を柔らかくする体操を行います。投球は全身運動なので、肩以外の関節がしっかり動くことが大事なので、体幹や股関節、膝関節、足関節、肘関節の可動域を広げます。スリーパーストレッチが効果あります。
🔳注射:症状が強い場合、滑液包や神経の周囲にステロイドや痛み止めで炎症を鎮め、関節の滑動性を上げるためヒアルロン酸を注入します。
🔳筋力強化:痛みが取れてきたら腱板や前鋸筋の筋力訓練を行います。
②手術療法
保存療法で改善しない場合、関節鏡(かんせつきょう)を用いて「腱板の下を削る(骨棘切除)」手術を検討します。約1cm程度の小さな穴2〜3箇所から行うため傷は小さく、回復を早めます。
③再生医療
自分の脂肪や骨髄から採取した幹細胞を肩に注入し、壊れた腱や滑液包を再生させる試みも進んでいます。大規模な臨床試験はまだこれからですが、一部のトップアスリートでは実績が報告されています。
6. 復帰率と復帰までの期間
スポーツ選手が肩インピンジメント症候群と診断された場合の一般的なデータは以下のとおりです。
治療法 | 復帰率の目安 | 復帰までの平均期間 |
---|---|---|
保存治療[1,2] | 約87~100% | 3~6ヶ月 |
手術治療[3] | 約68~77% | 平均12ヶ月(9~17ヶ月) |
👉復帰率 ➡ 約68~100%:治療法によって差はありますが、多くの投手が競技レベルに戻れています。投手の手術症例は競技復帰率が約68%で野手より低下しています[3]。
👉期間:重症度や選手それぞれの回復力によりますが、数ヶ月〜1年程度を見込むのが一般的です。手術治療の方が復帰まで時間がかかります。
7. おわりに
肩インピンジメント症候群は、「治らないもの」ではありません。正しい診断と段階的な治療、セルフケアを続けることで、多くの投手が再びマウンドに立っています。
✅ポイント:早期発見・早期対応。
✅継続:リハビリやストレッチは一度始めたら習慣化すること。
✅専門家のサポート:自己判断せず、整形外科医や理学療法士と連携を。
野球肩、投球肩の痛みでお困りの際は、肩関節の専門医の診察を受けましょう。投球肩は肩関節だけでなく、体幹や下肢の関節のストレッチも大事です。マウンドで再び輝く日を目指して、一歩ずつ治療とリハビリを進めましょう。
参考文献
- Bolia IK, Collon K, Bogdanov J, Lan R, Petrigliano FA. Management Options for Shoulder Impingement Syndrome in Athletes: Insights and Future Directions. Open Access J Sports Med. 2021 Apr 13;12:43-53.
- 岡村英和, 堀井基行, 新井祐志, 他. 肩関節内インピンジメント症候群を認めた野球選手に対する治療選択のためのスクリーニングテスト. 肩関節. 2014;38(2):666-670.
- Harris JD, Frank JM, Jordan MA, Bush-Joseph CA, Romeo AA, Gupta AK, Abrams GD, McCormick FM, Bach BR Jr. Return to sport following shoulder surgery in the elite pitcher: a systematic review. Sports Health. 2013 Jul;5(4):367-76.