中山クリニック

肩がズキズキと痛くなる正体は?

掲載日:2024.09.18

急に肩がズキズキ痛い、腕が上がらない、夜間に肩の痛みで目覚めたり寝返りが痛くでできない、など、経験したことありませんか?今回は、30歳以上になると、多くの人が悩まされる「肩の痛み」について、わかりやすく解説します。普段の生活にも影響する肩の痛みについて理解を深めましょう。

————目次————
1.なぜ肩の痛みが多いの?
2.肩の痛みの主な原因
3.肩の痛みの原因と対処法
4.危険!注意が必要な肩の痛み
5.肩の痛みを予防するには?
6.まとめ
7.参考文献

なぜ肩の痛みが多いの?

肩の痛みは、とてもよくある症状です。実は、肩の関節は体の中でも特に複雑な構造をしているんですね。腕を様々な方向に動かせるのはこの複雑な構造のおかげですが、同時にそれが原因で問題も起こりやすいんです。私たちは毎日、色々な場面で肩をたくさん使っています。腕を上げたり、物を持ち上げたり、立ち上がる時に体を支えたり、パソコンを使ったり…。こういった動きを繰り返すうちに、無意識のうちに肩に負担がかかっています。また、年を取るにつれて、肩の筋肉や腱が弱くなったり、骨がもろくなったりします。これも肩の痛みの原因になります。

肩の痛みの主な原因

肩の痛みは、約2/3以上で、肩関節が原因と報告されています(1)。では、その中でよく見られるものから順に見ていきましょう。

  1. 腱板断裂(けんばんだんれつ):約22%の人が経験(2)
  2. 肩関節周囲炎(かたかんせつしゅういえん)いわゆる五十肩:約20%の人が経験(1)
  3. 石灰性腱炎(せっかいせいけんえん):約10%の人が経験(3)
  4. 頚椎症性神経根症(けいついしょうせいしんけいこんしょう):約5%の人が経験(4)
  5. 胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん):約1%の人が経験(5)

肩の痛みの原因と対処法

それでは、それぞれの原因について詳しく見ていきましょう。ここでは代表的な症状、原因、対処法について述べます。

腱板断裂

腱板というのは、肩の関節を覆っている4つの筋肉と腱のことです。これが切れたり、傷ついたりすると痛みが出ます。

正常肩 エコー画像 腱板断裂 エコー画像

症状

  • ・腕を上げるときの痛み
  • ・夜間の痛み
  • ・腕の力が入りにくくなる

原因

  • ・年齢(50歳以上で増加)
  • ・繰り返しの動作(特に頭上での作業)
  • ・突然の力がかかること(重い物を持ち上げるなど)

対処法

  1. 安静:痛みがある間は無理に動かさない
  2. 薬物療法:医師の指示で、痛み止めを使用
  3. リハビリテーション:理学療法士の指導下で肩の動く範囲を広げて肩周囲の筋肉を強くする
  4. 注射療法:痛みを和らげる方法として滑液包や関節内に痛み止めやヒアルロン酸を注入
  5. 内視鏡手術:症状が重い場合や保存療法で改善しない場合

肩関節周囲炎(拘縮肩・拘縮肩)

いわゆる「五十肩」と呼ばれるものです。五十肩は一般名称で、医学用語では認められていない言葉で、凍結肩拘縮肩癒着性関節包炎が正式な病名になります。肩の関節を囲む組織が炎症を起こして、痛みや動きの制限(可動域制限)が起こります。

正常肩 XP画像 変形性肩関節症(関節軟骨が消失) XP画像

症状

  • ・肩の動きが制限される
  • ・痛みで眠れない
  • ・徐々に進行する痛み

原因

  • ・はっきりとした原因は不明
  • ・年齢とともに増加(特に50歳以上)
  • ・肩の使いすぎや過度の運動も関係する可能性

対処法

  1. ストレッチ:痛みの範囲内で少しずつ肩を動かす
  2. 薬物療法:ロキソニン カロナール など
  3. ブロック注射:ヒアルロン酸やステロイドを関節内へ注射(エコー下は効果大)
  4. リハビリテーション:理学療法士の指導下で肩の動く範囲を広げる
  5. マニュピレーション:伝達麻酔下に痛みなく肩の動く範囲を確実に広げる
  6. 内視鏡手術:症状が重い場合や保存療法で改善しない場合

石灰沈着性腱炎

肩の腱の中にカルシウムの結晶が沈着して、痛みを引き起こす病気です。

正常肩 XP画像 石灰沈着性腱板炎 XP画像

症状

  • ・突然の激しい痛み
  • ・肩の動きが制限される
  • ・夜間に痛みが悪化することがある

原因

  • ・はっきりとした原因は不明
  • ・30〜60歳の女性に多い
  • ・繰り返しの動作や血行不良が関係する可能性

対処法

  1. 薬物療法:ロキソニン カロナール など
  2. ステロイド注射:症状が強い場合、エコー下に石灰を吸引ながら注射すると非常に効果あり
  3. 体外衝撃波治療:石灰沈着を破壊する
  4. リハビリテーション:理学療法士の指導下で肩の動く範囲を広げる 痛みが取れたらストレッチ開始
  5. 内視鏡手術:症状が重い場合や保存療法で改善しない場合

頚椎症性神経根症

首の骨(頚椎)から出ている神経が圧迫されて起こる病気です。

頸椎症性神経根症 MRI画像

症状

  • ・首から肩、腕にかけてのしびれや痛み
  • ・腕の力が弱くなる
  • ・首を動かすと症状が変化する

原因

  • ・加齢による骨の変形
  • ・骨と骨の間にある軟骨が飛び出す(椎間板ヘルニア)
  • ・不適切な姿勢

対処法

  1. 安静:急性期は安静にする
  2. ストレッチ:痛みの範囲内でゆっくり行う
  3. 薬物療法:ロキソニン カロナール など
  4. ブロック注射:症状が強い場合に神経の周りにエコー下でステロイドや痛み止めを注射
  5. 手術:症状が重い場合や保存療法で改善しない場合

胸郭出口症候群

首と胸の境目にある神経や血管が圧迫されて起こる病気です。

症状

  • ・腕のしびれや痛み
  • ・手の冷たさやむくみ
  • ・頭痛や首の痛み

原因

  • ・姿勢の悪さ(特に首や肩の前傾姿勢)
  • ・筋肉の緊張
  • ・先天的な骨の異常
  • ・交通事故や転倒

対処法

  1. ストレッチ:正しい姿勢を意識する首や肩のストレッチを行う
  2. 運動療法:肩周りの筋肉を強化する
  3. 薬物療法:痛みやしびれを軽減する薬を使用
  4. ブロック注射:症状が強い場合に神経の周りにエコー下でステロイドや痛み止めを注射
  5. 手術:稀に必要な場合がある

危険!注意が必要な肩の痛み

肩の痛みの中には、非常にまれですが心臓の病気(6)がんが原因(7)で起こるものもあります。特に注意が必要なのは次のような場合です:

急性心筋梗塞・狭心症

症状

  • ・突然の胸の痛みと共に左肩や左腕に痛みが広がる
  • ・冷や汗、吐き気、息苦しさを伴う
  • ・若い人でも起こる可能性がある(特に日本では増加傾向)

がんの骨転移

症状

  • ・持続的な痛み止めが効果ない痛み
  • ・夜間の痛みが特徴
  • ・体重減少、倦怠感、など原因不明の肩の痛みが続く場合は要注意

   
これらの症状がある場合は、すぐにかかりつけ医を受診しましょう
肩の痛みでマッサージを受診。その後、痛みが強くなり当院を受診した患者さんにガンの転移が見つかったという症例もあります。

肩の痛みを予防するには?

肩の痛みを完全に予防することは難しいですが、肩関節が原因である場合は、次のことに気をつけると良いでしょう:

  1. 正しい姿勢を保つ:特にデスクワークが多い人は要注意
  2. 適度な運動:肩周りの筋肉を強くする運動を
  3. ストレッチ:肩周りのストレッチを毎日行う
  4. 無理をしない:重い物を持つときは腰を落として
  5. 休憩をとる:同じ姿勢を長時間続けないように

まとめ


肩の痛みは、様々な原因で起こります。自然に治ることもありますが、肩の動きが悪くなってからの治療はリハビリがとても大変になります。長引く痛みや激しい痛みがある場合は必ず医師に相談しましょう。また、突然の肩の痛みと共に胸の痛みや息苦しさがある場合は、心臓の病気の可能性があるので、すぐに救急受診しましょう。
肩の痛みはとてもつらいですが、正しい診断と正しい治療でほとんど良くなります。痛みを取って健康で明るく楽しい生活を過ごしましょう。

参考文献

  1. Mitchell C, Adebajo A, Hay E, Carr A. Shoulder pain: diagnosis and management in primary care. BMJ. 2005;331(7525):1124-1128.
  2. Yamamoto A, Takagishi K, Osawa T, et al. Prevalence and risk factors of a rotator cuff tear in the general population. J Shoulder Elbow Surg. 2010;19(1):116-120.
  3. Sansone V, Maiorano E, Galluzzo A, Pascale V. Calcific tendinopathy of the shoulder: clinical perspectives into the mechanisms, pathogenesis, and treatment. Orthop Res Rev. 2018;10:63-72.
  4. Iyer S, Kim HJ. Cervical radiculopathy. Curr Rev Musculoskelet Med. 2016;9(3):272-280.
  5. Kuhn JE, Lebus V GF, Bible JE. Thoracic outlet syndrome. J Am Acad Orthop Surg. 2015;23(4):222-232.
  6. Watanabe S, Takahashi T, Takada S, et al. Increasing trend of acute myocardial infarction in the younger population in Japan – A population-based observational study from the Miyagi AMI Registry Study. Circ J. 2019;83(5):1070-1075.
  7. Coleman RE. Clinical features of metastatic bone disease and risk of skeletal morbidity. Clin Cancer Res. 2006;12(20 Pt 2):6243s-6249s.