腱板断裂とは?症状・セルフチェック・放置リスク・治療と手術まで整形外科専門医が解説

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肩が痛い。

腕を上げるとズキッとする。

夜、寝返りをした瞬間に肩が痛くて目が覚める。

「五十肩かな」「年齢のせいかな」と思いながら、つい我慢していませんか。

ここで大事なのは、50代以降の肩の痛みの中には、いわゆる五十肩だけでなく「腱板断裂」が隠れていることがある、という点です。

腱板断裂は、肩を動かすためにとても大切な“すじ”が傷んだり、切れたりする状態です。痛みが強い方もいれば、実は断裂していても症状がほとんどない方もいます。だからこそ、自己判断が難しい病気でもあります。

この記事では、腱板断裂の症状、五十肩との違い、10秒でできるセルフチェック、放置した場合のリスク、保存療法、再生医療、手術、術後リハビリまで、患者さんに直接お話しするようにわかりやすく解説します。

  1. 腱板断裂とは、肩を支える4つの腱が傷んだり切れたりする状態です
  2. 腱板断裂の症状は、夜間痛・腕が上がらない・力が入らないことです
  3. 腱板断裂と五十肩は似ていますが、原因と治療方針が違います
  4. 腱板断裂の原因は、加齢による摩耗とケガの2つに分けられます
  5. 腱板断裂の種類は、部分断裂と完全断裂に分けられます
  6. 10秒でできる腱板断裂セルフチェック
  7. ペインフルアークサイン
  8. エンプティ・キャン・テスト
  9. ベリープレステスト、別名ナポレオンテスト
  10. ドロップアームサイン
  11. 腱板断裂は触ってわかることがありますが、自己判断は禁物です
  12. 腱板断裂は自然に治るのか
  13. 腱板断裂を放置すると、断裂が広がり、筋肉が痩せ、関節が変形することがあります
  14. 腱板断裂の診断には、診察・レントゲン・エコー・MRIを組み合わせます
  15. 腱板断裂の治療法は、保存療法・再生医療・手術療法に分けられます
    1. 保存療法
    2. 再生医療、PRP・APSなど
    3. 手術療法
  16. 腱板断裂で手術が必要になるのはどんな場合か
  17. 関節鏡下腱板修復術では、アンカーと糸で腱を骨に固定します
  18. コラーゲンシートによる補強は、再断裂リスクを下げる目的で使われることがあります
  19. 手術後の流れ:入院、装具、リハビリ、復帰まで
  20. 手術成功のカギは、焦らず安静を守ることです
  21. 腱板断裂のリハビリで避けるべき動作
  22. 腱板断裂の治療期間はどのくらいかかるか
  23. 肩の痛みは日本人に多い悩みです
  24. 受診の目安:この症状があれば整形外科へ
  25. まとめ:腱板断裂は、早く気づき、正しく治療することが大切です
  26. よくある質問
  27. 引用文献

腱板断裂とは、肩を支える4つの腱が傷んだり切れたりする状態です

腱板断裂とは、肩関節を安定させ、腕をスムーズに動かすための4つの筋肉の腱が傷んだり、切れたりする状態です。
腱板は肩の奥にあるインナーマッスルのような存在で、肩を動かすだけでなく、骨と骨の間のクッションとしても働いています。

「腱板」という言葉は、初めて聞くと少し難しく感じますよね。

腱板は、1つの筋肉ではありません。肩甲骨から始まり、腕の骨である上腕骨の先端に付着している4つの筋肉の腱が集まったものです。具体的には、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つです。

棘上筋は、腕を横から上げるときに特に重要です。
腱板断裂では、この棘上筋の腱が最も傷みやすいとされています。
棘下筋と小円筋は、腕を外側にひねる動きに関わります。肩甲下筋は、腕を内側にひねる動きに関わります。

この4つの腱が、まるで板のように上腕骨頭を包み込み、肩関節を安定させています。だから「腱板」と呼ばれるんですね。

肩関節は、体の中でも特に動く範囲が広い関節です。
髪を洗う、服を着替える、洗濯物を干す、棚の上の物を取る、車の運転席から駐車券を取る。
こうした何気ない動作の裏側で、腱板はずっと働いています。

ところが、40代、50代を過ぎるころから、腱は少しずつ硬く、もろくなります。
若いころは弾力があって滑らかに動いていた腱板も、年齢とともに摩耗しやすくなります。
そこに、転倒、スポーツ、力仕事、重い荷物を持つ動作などが加わると、腱板が傷んだり切れたりすることがあります。

腱板断裂は高齢者だけの病気ではありません。
若い方でも、スポーツや仕事中のケガで急に断裂することがあります。

ただし、全体としては年齢とともに増えることがわかっています。
一般人口を対象にした研究では、腱板断裂の有病率は22.1%で、年齢とともに増加し、無症状の断裂は症状のある断裂の約2倍だったと報告されています[1]

腱板断裂の症状は、夜間痛・腕が上がらない・力が入らないことです

腱板断裂の代表的な症状は、夜間痛、腕を上げるときの痛み、力の入りにくさです。
特に「夜、肩が痛くて眠れない」「横向きに寝られない」という症状は、腱板断裂でよく相談される症状の一つです。

患者さんからよく聞くのは、こういう訴えです。

「洗濯物を干すと肩が痛い」
「髪を洗うときに腕が上げにくい」
「服を着替えるとき、袖に腕を通すのがつらい」
「車の駐車券を取ろうと腕を伸ばすと痛い」
「宴会の席でビールを注ごうと手を伸ばすと痛い」
「ペットボトルのふたを開けるときに力が入りにくい」

こうした動作に共通しているのは、腕を上げる、伸ばす、ひねるという動きです。
特に、腕を上げて肩を内側にひねる動作は、腱板に負担がかかりやすく、痛みが出やすい動きです。

ここで注意したいのは、「腕が上がるから腱板は切れていない」とは言い切れないことです。
腱板が切れていても、周りの筋肉がうまくカバーして、ある程度腕が上がる方もいます。
逆に、痛みが強くて腕が上がらない場合でも、五十肩や石灰沈着性腱板炎など別の病気が原因のこともあります。

ですから、症状だけで決めつけるのではなく、診察や画像検査で確認することが大切です。

腱板断裂と五十肩は似ていますが、原因と治療方針が違います

腱板断裂と五十肩は、どちらも肩の痛みや動かしにくさを起こします。そのため、患者さん自身で見分けるのは簡単ではありません。五十肩と言われた方の中に腱板断裂が見つかることもあり、見逃されやすい病気の一つです。

五十肩は、正式には肩関節周囲炎と呼ばれます。肩関節の周囲に炎症が起こり、関節が固くなって動かしにくくなる状態です。特徴としては、自分で動かしても、人に動かしてもらっても肩の可動域が狭くなることが多いです。

一方、腱板断裂では、腱が傷んだり切れたりすることで、腕を上げる途中で痛みが出る、力が入りにくい、夜間痛が強いといった症状が目立ちます。完全断裂がある場合は、肩の特定の部分を触るとくぼみや痛みを感じることもあります。

ただし、実際の診療では、五十肩と腱板断裂が重なっていることもあります。肩が痛いから五十肩、50代だから五十肩、と単純には言えません。

特に、50歳を過ぎてから、夜間痛が強い、肩を上げる途中でズキッと痛む、急に腕が上がらなくなった、力が入りにくい、という場合は腱板断裂を疑って整形外科で相談してください。

腱板断裂の原因は、加齢による摩耗とケガの2つに分けられます

腱板断裂の原因は、大きく分けると2つあります。1つは加齢に伴う変性断裂、もう1つは転倒やスポーツなどによる外傷性断裂です。

変性断裂は、長年使ってきた腱が少しずつ摩耗して、弱くなって切れていくタイプです。50代以降に多く、痛みが少ないまま進行することもあります。実際、無症状の腱板断裂は珍しくありません。肩の痛みがまったくない方を調べても、年齢が上がるほど腱板断裂が見つかる割合は増えます。50代で13%、60代で20%、70代で31%、80代以上で51%に無症候性断裂が見つかったという報告もあります[2]

一方、外傷性断裂は、転倒して手をついた、重い物を持ち上げた、スポーツ中に肩をひねった、といったはっきりしたきっかけで起こります。
若い方や、仕事・スポーツで肩をよく使う方に多く、痛みが強く、急に力が入らなくなることがあります。

ここで特に注意したいのは、外傷性断裂です。

それまで普通に上がっていた腕が、転倒やケガのあとから急に上がらなくなった。こういう場合は、早めに専門医の診察を受けてください。切れた腱は時間がたつと縮み、筋肉が痩せ、脂肪変性といって筋肉の質が変わってしまうことがあります。そうなると、後から手術をしようとしても修復が難しくなる場合があります。

腱板断裂の種類は、部分断裂と完全断裂に分けられます

腱板断裂には、いくつかのタイプがあります。

腱板は層構造を持っており、一部だけが切れている状態を部分断裂と呼びます。部分断裂は「腱板損傷」と表現されることもあります。一方、腱の厚み全体が切れている状態を完全断裂、または全層断裂と呼びます。

完全断裂は、大きさによって分類されます。

1cmまでを小断裂、1〜3cmを中断裂、3〜5cmを大断裂、5cm以上を広範囲断裂と呼ぶことがあります。

この分類が大事なのは、断裂の大きさや形によって治療方針が変わるからです。小さな部分断裂であれば、保存療法やリハビリで症状が改善することもあります。一方、大きな完全断裂や、活動性の高い方の外傷性断裂では、手術を検討することがあります。

10秒でできる腱板断裂セルフチェック

腱板断裂が心配な方に、まず知っていただきたいセルフチェックがあります。
ただし、これはあくまで「疑わしいかどうか」を見る目安です。陽性だから腱板断裂と確定するわけではありませんし、陰性だから絶対に大丈夫とも言い切れません。

痛みが強い場合は無理に行わないでください。

ペインフルアークサイン

ペインフルアークサイン

ペインフルアークサインは、腕を横から上げていく途中で痛みが出るかを見るテストです。

リラックスして立ち、腕を体の横からゆっくり上げていきます。このとき、60度から120度くらいの角度で肩に痛みが出て、その角度を過ぎると痛みが少し和らぐ場合、腱板損傷の可能性があります。

特に棘上筋の腱板損傷を疑うときに参考になるチェックです。

「肩を上げ始めは大丈夫。でも途中の角度でズキッと痛い」。こういう場合は、腱板に負担がかかっているかもしれません。

エンプティ・キャン・テスト

エンプティ・キャン・テスト

エンプティ・キャン・テストは、棘上筋の働きを見るテストです。

両腕を肩の高さまで前に上げ、少し外側に開きます。親指を下に向け、空き缶の中身を捨てるような姿勢を作ります。その状態で、誰かに軽く腕を上から押してもらい、それに抵抗して腕を保ちます。

このとき、肩の前や横に痛みが出る、力が入らず腕が下がってしまう場合は、腱板損傷のサインかもしれません。

一人で行う場合は、壁に軽く腕を押し付けるようにして確認することもできますが、無理はしないでください。

ベリープレステスト、別名ナポレオンテスト

ナポレオンテスト

ベリープレステストは、肩甲下筋の損傷を疑うときに行うテストです。別名ナポレオンテストとも呼ばれます。

手のひらをお腹、みぞおちの少し下あたりに当てます。そして、肘をできるだけ前に出したまま、手のひらでお腹を押します。

正常であれば、肘を前に出したまま、手首もまっすぐな状態でお腹を押せます。ところが肩甲下筋がうまく働かない場合、肘が後ろに引けたり、手首が反ったり、肩の前側に痛みが出たりします。

このテストは、腕を内側にひねる働きに関わる肩甲下筋を見るためのものです。

ドロップアームサイン

腕を横から90度くらいまで上げ、そこからゆっくり下ろします。

途中で腕がストンと落ちてしまう、痛みで支えられない、力が入らない場合は、腱板断裂の可能性があります。

ただし、痛みが強いときに無理に行うと症状が悪化することがあります。セルフチェックは診断ではなく、受診の目安と考えてください。

腱板断裂は触ってわかることがありますが、自己判断は禁物です

完全断裂の場合、肩の前上方を触ることで、くぼみや痛み、ぐしゅぐしゅしたような触感を感じることがあります。

具体的には、腕を後ろに伸ばすような姿勢、たとえばポケットに手を入れるような姿勢をとります。その状態で鎖骨を触り、外側へたどると肩峰という骨の先端に触れます。そこから少し前に指をずらすと、上腕骨頭の丸みを感じます。

正常であれば、その上を腱板が覆っているため、弾力のある組織として触れます。断裂がある場合は、くぼみや痛みを感じることがあります。

ただし、触った感覚だけで診断することはできません。肩の構造は複雑で、痛みの原因もさまざまです。気になる症状が続く場合は、整形外科で診察を受けてください。

腱板断裂は自然に治るのか

腱板断裂まとめ

ここは多くの方が気になるところだと思います。

結論からいうと、完全に切れた腱板が自然に元通りくっつくことは基本的に期待しにくいです。ただし、痛みが改善することはあります。

ここが少しややこしいところです。

腱板断裂があっても、リハビリで肩の動きが安定し、周囲の筋肉がうまく働くようになると、痛みが軽くなり、日常生活に支障が少なくなる方はいます。つまり「断裂そのものが治った」のではなく、「断裂があっても困らない肩に近づいた」と考えるとわかりやすいです。

そのため、腱板断裂と診断されたからといって、全員がすぐに手術になるわけではありません。症状、断裂の大きさ、年齢、仕事、スポーツ活動、生活への支障、今後の進行リスクを総合的に考えて治療方針を決めます。

腱板断裂を放置すると、断裂が広がり、筋肉が痩せ、関節が変形することがあります

腱板断裂を放置すると、必ず悪化するとは言い切れません。しかし、時間とともに断裂が拡大することがあるため注意が必要です。

腱板は、肩を動かすだけでなく、上腕骨と肩甲骨の肩峰の間でクッションの役割も担っています。断裂が大きくなると、このクッション機能が失われ、肩のバランスが崩れます。

その結果、次のようなことが起こる場合があります。

・断裂の範囲が広がる。
・肩の筋肉が痩せる。
・筋肉に脂肪変性が進む。
・関節の軟骨がすり減る。
・骨が変形する。
・痛みが強くなる。
・腕が上がりにくくなる。
・最終的に、通常の腱板修復では対応しにくくなる。

保存的に経過を見た症候性腱板断裂では、MRIで断裂の進行が観察されることがあり、完全断裂は部分断裂より進行しやすいと報告されています[3]。  また、症状が続く患者さんでは断裂の進行が問題になることがあり、年齢や断裂の種類などが関連します。

進行して腱板断裂性関節症という状態になると、通常の腱板修復術ではなく、リバース型人工肩関節など別の治療が必要になることがあります。ですから「痛みがあるけれど我慢できるから放置する」のではなく、一度状態を確認しておくことが大切です。

腱板断裂の診断には、診察・レントゲン・エコー・MRIを組み合わせます

腱板断裂の診断では、まず問診が大切です。いつから痛いのか、転倒やケガがあったのか、夜間痛があるのか、どの動作で痛むのか、仕事やスポーツで肩を使うのかを確認します。

次に、肩の動き、痛みの場所、筋力、セルフチェックと似たテストを診察で行います。

画像検査では、レントゲン、エコー、MRIを使います。

レントゲンでは、骨の変形、肩峰と上腕骨の距離、石灰沈着、変形性肩関節症の有無などを確認します。腱そのものはレントゲンに写りませんが、肩の全体像を見るために重要です。

エコーは、超音波で腱板の状態をその場で確認できる検査です。最近はエコーの性能が高くなり、腱板断裂の診断に非常に役立ちます。動かしながら見られるのも利点です。

MRIは、腱板の断裂の有無、大きさ、場所、筋肉の萎縮、脂肪変性、関節内の状態を詳しく見ることができます。手術を検討する場合には特に重要です。

腱板断裂の治療法は、保存療法・再生医療・手術療法に分けられます

腱板断裂の治療は、断裂があるからすぐ手術、という単純なものではありません。症状や生活への支障、断裂の大きさ、活動性、年齢、希望を見ながら治療を選びます。

治療法は大きく、保存療法、再生医療、手術療法に分けられます。

保存療法

保存療法とは、手術をせずに行う治療です。

まず大切なのは、痛みを誘発する動作を避けることです。特に、腕を内側にひねって上げる姿勢、ボールを投げる動作、上からラケットを振る動作、重い物を持ち上げる動作は、腱板に負担がかかります。

痛みが強い時期には、消炎鎮痛薬を使うことがあります。夜間痛が強く眠れない場合は、一時的に痛みを抑えて睡眠を確保することも大切です。

炎症が強い場合は、エコーで確認しながら注射を行うことがあります。麻酔薬や少量のステロイドを使って炎症を抑える方法、神経や筋膜周囲の癒着をはがす目的で行うハイドロリリースなどが選択されることもあります。

そして、保存療法で最も大事なのがリハビリです。

腱板断裂がある肩では、肩甲骨や周囲の筋肉の動きが崩れていることがあります。理学療法士の指導のもとで、肩甲骨の動き、姿勢、可動域、筋力を整えることで、痛みが軽くなることがあります。

外傷のない完全断裂に対する理学療法では、約75%の患者さんで非手術治療が有効だったとする多施設共同研究があります[4]。  ただし、保存療法で症状がよくなっても、断裂そのものが完全に修復されているとは限りません。定期的な経過観察が必要です。

再生医療、PRP・APSなど

再生医療として、PRPやAPSなどを用いる治療が行われることがあります。PRPは多血小板血漿と呼ばれ、自分の血液から血小板を多く含む成分を取り出し、傷んだ部位に注射する治療です。

腱板部分損傷などに対して、炎症を抑え、痛みの改善や腱の治癒環境を整えることを目的に行われます。PRPを用いた研究では、2年時点でも一定の症状改善が報告され、部分断裂が全層断裂へ進行した臨床所見はなかったとされています[5]

ただし、再生医療はすべての腱板断裂に有効と断定できる治療ではありません。断裂の大きさ、状態、保険適用の有無、費用、期待できる効果、限界を確認したうえで選ぶ必要があります。

手術療法

手術は、保存療法を行っても痛みが改善しない場合、活動性が高く筋力回復が必要な場合、外傷性断裂で早期修復が望ましい場合、大きな完全断裂で進行リスクが高い場合などに検討します。

現在の主流は、関節鏡下腱板修復術です。

肩に数か所、小さな穴を開け、関節鏡というカメラと専用器具を入れて、モニターを見ながら断裂した腱を修復します。大きく切開する手術に比べ、傷が小さく、肩の中を詳しく確認しながら精密に修復できる点が特徴です。

関節鏡手術は、小さな切開から関節内を観察し、治療も行える低侵襲手術として広く使われています。

腱板断裂で手術が必要になるのはどんな場合か

腱板断裂と診断されても、全員が手術になるわけではありません。ここは患者さんが一番不安に感じるところだと思います。

手術を検討する代表的なケースは、次のような場合です。

・保存療法を3か月ほど行っても、痛みや動きが改善しない。
・夜間痛が強く、日常生活や睡眠に支障がある。
・腕が上がらない、力が入らない状態が続く。
・スポーツや力仕事で肩の筋力が必要。
・転倒やケガのあと、急に腕が上がらなくなった。
・完全断裂で、断裂の拡大や筋萎縮が心配される。
・断裂が大きく、将来的な変形性肩関節症のリスクがある。

特に、若くて活動性の高い方、仕事で肩を使う方、スポーツを続けたい方、外傷性断裂の方では、早めに手術を検討することがあります。

一方で、高齢で活動性が高くない方、小さな断裂の方、痛みが少なく日常生活に支障が少ない方では、保存療法で経過を見ることもあります。

大切なのは、MRIやエコーで断裂の状態を確認し、患者さんの生活背景も含めて相談することです。

関節鏡下腱板修復術では、アンカーと糸で腱を骨に固定します

関節鏡下腱板修復術では、まず断裂した腱が付着する骨の表面をきれいに整えます。そのうえで、アンカーと呼ばれる糸付きの小さなネジのようなものを骨に埋め込みます。

このアンカーについた丈夫な糸を腱板にかけ、切れた腱を元の位置へ引き寄せて、骨にしっかり固定します。

最近では、スーチャーブリッジ法と呼ばれる、腱を面で圧着するように固定する方法も使われます。これにより、腱と骨が接触する面積を広くし、より強い固定を目指します。腱板修復術の長期成績を調べたシステマティックレビューでは、関節鏡下修復により臨床成績が改善し、10年時点で再手術率が低かったと報告されています[6]

手術中に、骨の出っ張りが腱板にぶつかっている場合は、その骨を削る処置を行うことがあります。また、痛みの原因になっている上腕二頭筋腱に対する処置を同時に行うこともあります。

コラーゲンシートによる補強は、再断裂リスクを下げる目的で使われることがあります

大きな断裂や、腱の質が悪い場合、修復した腱の上にコラーゲンシートを被せる補強法が行われることがあります。

これは、いわば補強パッチのようなものです。腱の治癒を助け、再断裂のリスクを下げることを目的に使われます。大断裂・広範囲断裂に対するバイオインダクティブ・コラーゲンパッチの研究では、安全性や治癒率を評価する前向き研究が報告されています[7]

ただし、コラーゲンシートも万能ではありません。断裂の大きさ、腱の状態、年齢、骨の状態、術後の安静やリハビリが結果に影響します。適応があるかどうかは、医師と相談して判断する必要があります。

手術後の流れ:入院、装具、リハビリ、復帰まで

手術は通常、全身麻酔で行われます。手術時間は断裂の大きさや処置内容によって変わりますが、おおよそ1〜2時間程度が目安です。

術後の痛みが心配な方も多いと思います。施設によって方法は異なりますが、超音波を使って神経ブロックを行い、痛みを和らげることがあります。

手術当日から歩行できることも多いですが、肩はすぐ自由に動かせるわけではありません。術後は、外転装具という特殊な装具で腕を支えます。

この装具は、腕のギプスのようなお守りです。

腕をだらんと下げると、重力で修復した腱が引っ張られます。外転装具で肩を少し開いた位置に保つことで、縫い合わせた腱に余計な力がかからないようにします。

固定期間は、断裂の大きさや修復状態によって変わりますが、3〜6週間程度、場合によってはそれ以上必要になることがあります。

手術成功のカギは、焦らず安静を守ることです

腱板断裂の手術は、手術が終わったら終了ではありません。むしろ、手術後の過ごし方がとても大事です。

縫い合わせた腱が骨にしっかりくっつくまでには時間がかかります。一般的には、少なくとも6〜8週間は特に慎重な時期です。

この時期に「少し動くから大丈夫」「早く治したいから自分で動かそう」と自己流でリハビリをしてしまうと、せっかく縫った腱が再断裂するリスクがあります。

良かれと思ったことが、逆効果になることがあるんですね。

リハビリは、必ず医師や理学療法士の指示に従って進めます。最初は理学療法士に動かしてもらう他動運動から始め、少しずつ可動域を広げます。その後、筋力強化、日常生活動作、仕事やスポーツ復帰に向けた訓練へ進みます。

デスクワーク復帰は術後1か月半〜3か月程度が目安になることがあります。力仕事やスポーツへの復帰は、半年から1年程度かかることもあります。ただし、断裂の大きさ、年齢、職業、スポーツ種目、術後経過によって大きく異なります。

腱板断裂のリハビリで避けるべき動作

腱板断裂では、保存療法中も術後も、避けた方がよい動作があります。

特に注意したいのは、腕を横から無理に上げる動作、腕を内側にひねって後ろに回す動作、重い物を持ち上げる動作です。術後早期では、これらの動作が修復した腱板に強い負担をかけます。

「痛みが少ないから大丈夫」と感じても、腱が骨にしっかりくっついているとは限りません。痛みの有無だけで判断しないことが大切です。

保存療法中でも、痛みを我慢して筋トレを続けるのはおすすめできません。腱板断裂のリハビリは、ただ鍛えればよいというものではありません。肩甲骨、姿勢、可動域、腱板以外の筋肉のバランスを整えることが大切です。

腱板断裂の治療期間はどのくらいかかるか

保存療法では、症状の改善を2〜3か月程度で感じる方もいます。ただし、完全に安定するまでには6か月以上かかることもあります。

手術療法では、日常生活の基本動作がしやすくなるまでに2〜3か月、スポーツや力仕事への復帰には6か月以上かかることが一般的です。大きな断裂では、さらに長くかかることもあります。

ここで大切なのは、焦らないことです。

肩は毎日使う関節です。早く元に戻したい気持ちはよくわかります。でも、腱板の治療では「早く動かすこと」より「正しい時期に、正しい負荷で動かすこと」が大切です。

肩の痛みは日本人に多い悩みです

肩の痛みや肩こりは、多くの方が悩む症状です。厚生労働省の2022年国民生活基礎調査では、症状別の有訴者率として、男女とも腰痛と肩こりが上位に挙げられています。

もちろん、肩こりや肩の痛みのすべてが腱板断裂ではありません。首の病気、五十肩、石灰沈着性腱板炎、変形性肩関節症、神経の問題など、原因はさまざまです。

ただ、50歳以降で、夜間痛がある、腕を上げる途中で痛い、力が入りにくい、転倒後から急に上がらない、という場合は、腱板断裂を一度考える必要があります。

受診の目安:この症状があれば整形外科へ

次のような場合は、整形外科専門医への受診をおすすめします。

・夜、肩が痛くて眠れない。
・横向きで寝られない。
・腕を上げる途中でズキッと痛む。
・洗濯物を干す、髪を洗う、服を着る動作がつらい。
・ペットボトルのふたを開けにくい。
・転倒やケガのあとから急に腕が上がらない。
・3か月以上、肩の痛みが続いている。
・五十肩と言われたが、なかなか改善しない。
・セルフチェックで痛みや力の入りにくさがある。

特に、ケガのあとに急に腕が上がらなくなった場合は、早めの診断が大切です。

まとめ:腱板断裂は、早く気づき、正しく治療することが大切です

腱板断裂は、50代以降の肩の痛みの原因として重要な病気です。夜間痛、腕を上げる途中の痛み、力の入りにくさがある場合は、五十肩だけでなく腱板断裂も考える必要があります。

腱板は、肩を動かすための筋肉であると同時に、骨と骨の間でクッションのように働く大切な組織です。断裂が小さいうちは保存療法で症状が改善することもありますが、放置して断裂が広がると、筋肉が痩せ、関節が変形し、治療の選択肢が限られることがあります。

一方で、腱板断裂と診断されたからといって、全員がすぐ手術になるわけではありません。症状が少ない方、生活に大きな支障がない方、小さな断裂の方では、リハビリや注射などの保存療法で経過を見ることもあります。

大切なのは、自己判断で放置しないことです。

肩の痛みが続くと、不安になりますよね。

でも、原因がわかれば、対策も見えてきます。

「もう歳だから仕方ない」とあきらめる前に、一度、肩の状態を確認してみてください。適切な診断と治療が、これからの肩を守る第一歩になります。

よくある質問

Q1. 腱板断裂は自然に治りますか?

完全に切れた腱板が自然に元通りくっつくことは基本的に期待しにくいです。ただし、リハビリで肩の動きが安定し、痛みが改善することはあります。断裂の大きさや症状によって治療方針が変わります。

Q2. 腱板断裂と五十肩はどう違いますか?

五十肩は肩関節の周囲に炎症や硬さが出る病気で、腱板断裂は肩を動かす腱が傷んだり切れたりする状態です。症状が似ているため、診察やエコー、MRIで確認することが大切です。

Q3. 腱板断裂を放置するとどうなりますか?

断裂が広がる、筋肉が痩せる、関節が変形する、腕が上がりにくくなる可能性があります。すべての方で進行するわけではありませんが、痛みが続く場合は早めに受診しましょう。

Q4. 腱板断裂のセルフチェックで陽性なら断裂していますか?

セルフチェックはあくまで目安です。痛みや力の入りにくさがあっても、腱板断裂以外の病気のこともあります。確定診断には医師の診察、エコー、MRIなどが必要です。

Q5. 腱板断裂の手術は必ず必要ですか?

必ず必要ではありません。保存療法で改善する方もいます。手術は、保存療法で改善しない痛み、外傷性断裂、活動性が高い方、大きな完全断裂などで検討されます。

Q6. 腱板断裂の手術後はどのくらいで日常生活に戻れますか?

日常生活の基本動作は術後2〜3か月程度、スポーツや力仕事は6か月以上かかることがあります。断裂の大きさや術後経過によって異なるため、主治医の指示に従ってください。

Q7. 腱板断裂はエコーでわかりますか?

エコーで腱板断裂を確認できることがあります。MRIでは断裂の大きさ、筋萎縮、脂肪変性などを詳しく評価できます。治療方針を決めるうえで、両方が役立つことがあります。

引用文献

  1. Minagawa H, Yamamoto N, Abe H, et al. Prevalence of symptomatic and asymptomatic rotator cuff tears in the general population. J Orthop. 2013;12(1):8-12.
  2. Tempelhof S, Rupp S, Seil R. Age-related prevalence of rotator cuff tears in asymptomatic shoulders. J Shoulder Elbow Surg. 1999;8(4):296-299.
  3. Maman E, Harris C, White L, et al. Outcome of nonoperative treatment of symptomatic rotator cuff tears monitored by magnetic resonance imaging. J Bone Joint Surg Am. 2009;91(8):1898-1906.
  4. Kuhn JE, Dunn WR, Sanders R, et al. Effectiveness of physical therapy in treating atraumatic full-thickness rotator cuff tears. J Shoulder Elbow Surg. 2013;22(10):1371-1379.
  5. Prodromos CC, Finkle S, Rumschlag T, et al. Treatment of Rotator Cuff Tears with platelet rich plasma. BMC Musculoskelet Disord. 2021;22:499.
  6. Davey MS, Hurley ET, Carroll PJ, et al. Arthroscopic Rotator Cuff Repair Results in Improved Clinical Outcomes and Low Revision Rates at 10-Year Follow-Up. Arthroscopy. 2023;39(2):452-458.
  7. Thon SG, O’Malley L, O’Brien MJ, Savoie FH. Evaluation of Healing Rates and Safety With a Bioinductive Collagen Patch for Large and Massive Rotator Cuff Tears. Am J Sports Med. 2019;47(8):1901-1908.
  8. 厚生労働省. 2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況.
監修医師

中山潤一医師

中山 潤一(医療法人社団佳和会 理事長)

  • 中山クリニック(兵庫県明石市)
  • 日本整形外科学会認定 専門医
  • 医学博士

※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を保証するものではありません。症状や状態によって治療方針は異なります。